灯台へ

灯台へ (岩波文庫)

灯台へ (岩波文庫)

小説を読んだのは何年ぶりだろうか。
長編のイギリス小説を読んだのはきっと初めてだろう。
ヴァージニアウルフに興味を持ったのは、ある映画の登場人物が「若いころに耽読したよ」と言っていたから。

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その中でも代表作っぽいものをチョイスした。
単に久しぶりに小説を読んだせいかもしれないし、イギリス小説だからかもしれない、
また、この著者だからかもしれないけど、こういう小説を読むのも良いなと思った。

情景描写はとても豊かで新鮮であった。初めて目にするような比喩表現も自然に感じられて、
物語を上品に彩っていた。決して難しい表現が出てくるわけではない。
登場人物である老人の心のうちも、子供の心のうちも、
それぞれのロジックがあって成り立っていることがわかるような心理描写であった。

情景の感じ方も、人の考え方や悩みも、時代の違い、国の違いなく共通なんだなと思った。
これは著者がそういった普遍的なテーマを扱っているからかもしれない。
身近な人間関係の難しさ、時の流れによる喪失感、閉塞感。

これとあれと向こうのあれと、わたしとチャールズと砕ける波と― ラムジー夫人はそれを巧みに結び合わせてみせた、まるで「人生がここに立ち止まりますように」とでも言うように。
夫人は何でもない瞬間から、いつまでも心に残るものを作り上げた― これはやはり一つの啓示なのだと思う。混沌の只中に確かな形が生み出され、絶え間なく過ぎゆき流れゆくものさえ、
しっかりとした動かぬものに変わる。人生がここに立ち止まりますように―そう夫人は念じたのだ。「ラムジー夫人!ラムジー夫人!」とリリーは繰り返し呼びかけた。
こんな啓示を得たのはあなたのおかげです。

当たり前のことだけれど、小説を読むことで得られることって、うまく表現できないけれど、確かにある。
今まで気づかないふりをしていたけれど。

ジェイムズは、時の流れが彼の意識の上に、木の葉やひだを一枚ずつ重ねるようにして、ゆっくりと絶え間なく積み上げてきた無数の印象の群れの中を
静かに手探りし始めた。

まるで、角を曲がると誰かに会えるかも、とでも思っているよう

に歩いていたラムジー夫人は、亡くなった後も、家族やリリー達に影響を与え続けてゆく。